プロローグ
「Sakana AI(サカナAI)って最近聞くけど、結局なにを作っている会社なの?」
AI企業と聞けば、ChatGPTのような生成AIを作っている会社を想像するかもしれません。
ところがSakana AIは、ちょっと発想が違います。
名前の「Sakana」は日本語の「魚」。魚の群れや生物の進化といった自然界の仕組みからヒントを得て、複数のAIを組み合わせたり、AI自身に試行錯誤させたりすることで、より賢いAIを生み出そうとしている東京発のAI企業です。
しかも2026年には、Sakana AIなどが開発した「AI Scientist」の研究が科学誌Natureに掲載されました。
では、Sakana AIはいったい何がそんなにすごいのでしょうか。
難しいAI用語はできるだけ横に置いて、「普通のAI会社と何が違うの?」というところから見ていきましょう。
Sakana AI(サカナAI)とは?まず「何をしている会社」なのか
Sakana AIは、2023年7月に東京で設立されたAI研究開発企業です。
共同創業者はDavid Ha(デイビッド・ハ)氏、Llion Jones(リオン・ジョーンズ)氏、伊藤錬氏の3人。
ここで最初の「すごい」が出てきます。
Llion Jones氏は、現在のChatGPTなど大規模言語モデルの基礎となったTransformerを発表した有名論文「Attention Is All You Need」の共同著者の一人です。
David Ha氏も元Googleの研究者で、Google Brainの日本研究チームを率いた経歴を持っています。
伊藤錬氏は東京大学法学部を卒業後、外務省、メルカリ、Stability AIなどを経てSakana AIを共同創業しています。
つまりSakana AIは、
「突然現れた謎のAI会社」
というより、世界のAI研究や日本のビジネスを経験してきた人たちが東京で始めた研究開発企業なんです。
そして社名の「Sakana」にも、同社の思想が表れています。
魚が一匹で巨大になるのではなく、小さな魚が群れになり、周囲に合わせて動く。
Sakana AIはこの「集合知」をAIに応用しようとしています。
ざっくり比べると、こんなイメージです。
| 考え方 | イメージ |
|---|---|
| 巨大AIを作る | ものすごく頭のいい一人を育てる |
| Sakana AIの発想 | 得意分野の違う複数の頭脳を組み合わせる |
| 進化的アプローチ | 何度も試して、良かった組み合わせを残す |
| 集合知 | 複数のAIを協力させて答えを探す |
もちろん現在のAI開発はこんな単純な二択ではありません。
ただ、Sakana AIを初めて知るなら、
「AIをひたすら巨大化する以外の道を探している会社」
と覚えておくと、かなり分かりやすいでしょう。
Sakana AI(サカナAI)は何がすごい?魚の群れと「進化」がAIになる
Sakana AIの面白さは、「自然界って、めちゃくちゃ効率よくない?」という発想をAI開発へ持ち込んでいるところです。
たとえば魚の群れ。
一匹一匹の魚を見れば、それほど複雑な判断をしているようには見えません。
ところが何百、何千という魚が集まると、群れ全体が一つの巨大な生き物のように方向を変えます。
もう一つが「進化」です。
自然界では、最初から完璧な生物が設計されたわけではありません。
さまざまな個体が生まれ、環境に適応した特徴が残り、それが何世代も繰り返されてきました。
Sakana AIは、こうした考え方をAIへ持ち込んでいます。
代表例が「Evolutionary Model Merge(進化的モデルマージ)」です。
すでに存在する複数のAIモデルを材料として、
「この組み合わせはどう?」
「こっちは?」
「さっきより性能が上がった!」
という試行錯誤を進化的アルゴリズムによって自動化し、良い組み合わせを探していきます。
料理にたとえるなら分かりやすいかもしれません。
腕のいい料理人が一つのレシピを考えるだけではなく、
AI自身に大量のレシピを試させ、おいしかった組み合わせを残し、さらに改良させる。
そんな発想です。
Sakana AIが2024年に公開した「Evolutionary Model Merge」の研究は、その後「Nature Machine Intelligence」に掲載されました。
さらに同社は2025年、「AB-MCTS」という技術も発表しています。
こちらはChatGPT、Gemini、DeepSeekなど異なるAIモデルを集合知として利用し、試行錯誤しながら問題を解かせようという研究です。
つまりSakana AIの「魚」は、かわいい会社名というだけではありません。
一つの巨大なAIに全部やらせるのではなく、違う能力を持つAIを群れとして使う。
社名そのものが、研究思想を表しているわけです。
Sakana AIの「AI Scientist」がすごい!AIが自分で研究するとは?
Sakana AIを世界的に知らしめた代表的な研究の一つが「The AI Scientist(AIサイエンティスト)」です。
これは名前の通り、
AIに科学者の仕事をさせよう
という研究です。
もう少し具体的にいうと、
| 研究者が行う仕事 | AI Scientist |
|---|---|
| 研究テーマ・アイデアを考える | AIが生成 |
| 実験方法を考える | AIが設計 |
| プログラムを書く | AIが実行 |
| 実験結果を分析する | AIが分析 |
| 論文を書く | AIが執筆 |
| 研究を評価する | AIによる査読も行う |
というところまで自動化を目指しています。
「ChatGPTに論文を書かせるのと何が違うの?」
ここがポイントです。
文章だけを書かせるのではありません。
アイデアを考える→実験する→失敗を確認する→改善する→結果を分析する→論文にする
という研究の流れそのものをAIに動かさせようとしています。
そして2026年3月、このAI Scientistに関する研究論文が科学誌「Nature」に掲載されました。
Natureも同時期の記事で、AI Scientistがアイデア生成から検証、論文化まで科学研究のサイクル全体を実行することを目指した自律型研究ツールとして紹介しています。
ここはかなり大きなポイントです。
ただし、
「AIがもう人間の科学者を超えた」
という意味ではありません。
AIが作った研究には、アイデアの新規性、引用、実験、研究の質など、まだ人間によるチェックが必要な問題があります。
それでも、
「AIは人間から質問されて答えるもの」
から、
「AI自身が問題を見つけ、試し、失敗し、次の方法を考えるもの」
へ進もうとしている。
Sakana AIのすごさを見るなら、この変化は外せません。
Sakana AIはなぜ日本で注目される?巨大AIとは違う道を選ぶ意味
もう一つ、Sakana AIを見るうえで重要なのが「日本でAIを作る」という問題です。
現在の最先端AI開発では、巨大なデータセンター、高性能GPU、大量の電力、莫大な投資資金が必要になります。
米国の巨大テクノロジー企業と同じ土俵で、
「もっとGPUを増やそう」
「もっと巨大なモデルを作ろう」
という資金勝負を日本企業が真正面から挑むのは簡単ではありません。
Sakana AI自身も、2025年のシリーズB発表で、AI計算資源へ記録的な資本が投入され続ける現在の方法が、日本にとって適切なのかという問題意識を示しています。
そこで出てくるのが、
「少ない資源でも、組み合わせ方や進化によって賢くできないか?」
という発想です。
これならSakana AIの「自然から学ぶ」という思想ともつながります。
自然界の生物は、無限のエネルギーを使って進化したわけではありません。
限られた環境の中で、適応し、生き残ってきました。
Sakana AIが目指しているのも「とにかく最大のAIを一個作る」ことだけではなく、AIモデルを組み合わせたり進化させたりする仕組みそのものを作ることです。
そして、これは研究だけの話ではなくなっています。
Sakana AIは現在、金融、防衛、インテリジェンスなどで社会実装を進め、Sakana Chat、Sakana Marlin、Sakana Fuguといった一般利用者向けのAI製品も開発しています。
2025年11月に発表したシリーズBでは総額約320億円を調達。
NVIDIA、Googleをはじめ、日本ではMUFG、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループ、KDDI、NEC、富士通など多数の企業・投資家が名を連ねています。
ただし、ここは冷静に見たいところ。
資金調達額が大きい=将来の成功が保証された、ではありません。
投資家が買っているのは、完成された未来ではなく「この技術と研究チームには大きな可能性がある」という期待でもあります。
だからSakana AIを理解するなら、
「日本から世界最強のAIが誕生した!」
とまで飛躍する必要はありません。
むしろ、
「AIを大きくする競争とは違うルートから、次のAIの作り方そのものを探している日本発の研究チーム」
という見方の方が、現在地に近いでしょう。
総集録
Sakana AI(サカナAI)とは、2023年に東京で誕生したAI研究開発企業です。
何がすごいのかを一言でまとめるなら、「もっと巨大なAIを作ろう」だけではなく、「AIの作り方そのものを変えられないか?」と挑戦しているところでしょう。
特に注目したいのは、
- 魚の群れのような「集合知」をAIへ応用する
- 生物の進化をヒントにAIモデルの組み合わせを自動探索する
- 複数の異なるAIを協力させる
- AIが研究そのものを行う「AI Scientist」を開発
- AI Scientistの研究は2026年にNatureへ掲載
- 巨大な計算資源だけに頼らないAI開発を模索している
という部分です。
Sakana AIの研究には、まだ実験段階のものもあります。
だから「もうOpenAIやGoogleを超えた」と考えるのは早すぎます。
でも、ここには別の面白さがあります。
GoogleやOpenAIと同じ巨大化競争を後ろから追いかけるのではなく、「そもそも、そのAIの作り方が正解なの?」と別ルートを掘り始めている。
Sakana AIの本当のすごさは、現在の規模よりも、この「違う道を選んでいること」にあるのかもしれません。
よくある質問Q&A
Q1.Sakana AI(サカナAI)とはどこの国の会社ですか?
日本の会社です。2023年7月に東京で設立され、現在の本社は東京都港区の麻布台ヒルズにあります。共同創業者はDavid Ha氏、Llion Jones氏、伊藤錬氏です。
Q2.なぜ会社名が「Sakana AI」なのですか?
日本語の「魚(さかな)」が由来です。魚の群れが個々の単純な行動から全体として複雑な動きを生み出す「集合知」の考え方が、同社のAI研究の思想と重なっています。ロゴにも魚の群れが使われています。
Q3.Sakana AIはChatGPTのようなAIを作っている会社ですか?
同じAI企業でも方向性はかなり違います。Sakana AIは一つの巨大モデルを作るだけではなく、複数モデルの融合、集合知、進化的アルゴリズム、AIによる研究自動化など、新しいAIの作り方そのものを研究しています。一方、現在はSakana Chatなど利用者向け製品も提供しています。
Q4.Sakana AIの一番すごい技術は何ですか?
一つに決めるのは難しいですが、一般の人にも変化の大きさが伝わりやすいのは「AI Scientist」です。AIが研究アイデアを考え、実験し、分析して論文を書くところまで自動化する研究で、関連論文は2026年3月にNatureへ掲載されました。
Q5.Sakana AIは今後OpenAIやGoogleのライバルになるのでしょうか?
単純なライバル関係で見ると少し違います。OpenAIやGoogleと同じ方法で巨大AIの性能競争をするというより、Sakana AIは進化や集合知を利用した別のAI開発方法を模索しています。将来的にその方法がAI開発の主流になるかどうかは、現時点ではまだ分かりません。


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